細菌性食中毒について
サークル”オタク語り”アドベントカレンダー 12/18
皆さんこんにちは、カシオレ侍です。
今日は食中毒についてのお話です。
おそらく次書く同人誌は食中毒についての本になると思います。
公衆衛生の中でも最も身近であり、実生活に活かしやすい内容だと思っております。
今回の記事で扱うのは細菌による食中毒、すなわち細菌性食中毒です。
細菌性食中毒は発症する機序によって以下の3つに分類することができます。
①感染型食中毒
②毒素型食中毒
③中間型食中毒
それぞれの特徴、及び菌種を見ていきましょう。
①感染型食中毒
例:腸炎ビブリオ、サルモネラ菌、腸管出血型大腸菌(EHEC)、カンピロバクター
感染型食中毒は、摂取した菌体が腸管内で増殖することによって発症します。
感染したら感染症と同じように原則発熱します。
毒素型との大きな違いは、発熱までに時間がかかることです。
半日以上はかかり、カンピロバクターや EHEC は発症まで なんと2 日以上もかかります。
また、毒素型とは異なり菌に感染することで発症するため、原因となる菌を殺せば食中毒を防ぐことができます。なので、十分に加熱して殺菌することが大事です!!
それでは、各原因菌について簡単にみていきましょう。
▶腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)
原因の食物:魚介類
ビブリオ属に属するグラム陰性桿菌です。
他のビブリオ属に属する細菌で有名なものにコレラがあります。
最大の特徴として、好塩菌でありNaClがないと増殖できないことが挙げられます。
20度以上に活発に増殖するため、市販されている魚の多くが汚染されていますが、実際には毒素を産生する少数の菌株のみ食中毒を起こすので、大部分は汚染されていても発症することはありません。
毒素は腸管上皮を破壊し粘血便を引き起こします。また、血中に移行すると心筋細胞に作用し心停止を引き起こすこともあります。
原因の食物:生の鶏卵、生肉
本来、サルモネラとはサルモネラ属に属する細菌すべてを指しますが、ここでは感染型食中毒を起こすもの(食中毒性サルモネラ:ネズミチフス菌 S. enterica serovar Typhimuriumや腸炎菌 S. enterica serovar Enteritidisなど)のみを狭義のサルモネラ菌として解説します。
食中毒を引き起こす狭義のサルモネラ菌を正式には「サルモネラ属菌」と呼びます。
他にサルモネラ属に属する細菌でヒトに対して病原性を持つものに、腸チフスやパラチフスを起こすもの(チフス菌 S. enterica serovar Typhiとパラチフス菌 S. enterica serovar Paratyphi A)があります。
日本において、サルモネラ属菌による食中毒は減少傾向にあり、約1割を占めています。
主な症状は、強い腹痛、嘔吐、激しい下痢などの消化器症状、発熱などで、特に発熱は他の細菌性食中毒に比べて高くなりやすいのが特徴です。
しかし、実際には病原性が弱く、100万~1000万匹程度摂取しなければ発症しないとされています。
対策として食物だけでなくまな板や包丁にも注意が必要です。
▶腸管出血性大腸菌(EHEC)
原因の食物:野菜、牛肉
腸管出血性大腸菌(EHEC)とは、ベロ毒素、または志賀毒素と呼ばれている毒素を産生することで病原性を持った大腸菌の総称です。
その中でも特にO157が有名であり、国内での死亡例もあります(後述のHUSを併発した例がとくに有名)。
ウシ腸管常在菌であり、糞便汚染された野菜・牛肉で感染します。
ベロ毒素は細胞を障害し、破壊してしまう作用があり、腸管粘膜の上皮細胞が障害されることによって下痢や血便が起こります。
また、ベロ毒素によって腎臓をはじめとする毛細血管の内皮細胞が障害されることによって、急性腎不全、溶血性貧血、血小板減少の3つを特徴とする溶血性尿毒症症候群(HUS)が発生します。
恐ろしいことに、腸管出血性大腸菌に感染・発症後、ベロ毒素の作用によって続発してくるHUSの合併を防ぐ有効な手段はありません。
感染力が強く、100匹以下でも発症するため人から人にうつる二次感染が多いです。
また、感染型の中でも、潜伏期間は 3~5 日と長いのも特徴です。
原因の食物:生ミルク、生肉
カンピロバクターとは、グラム陰性でらせん状に湾曲した形態を示す細菌の一属の総称です。
特にカンピロバクター・ジェジュニ (Campylobacter jejuni)が食中毒であるカンピロバクター症を引き起こすことで知られています。
日本での食中毒で、2番目に多い原因菌です。約30%を占めます。
感染経路は加熱不十分な鶏肉、未殺菌ミルクなどであり、2〜7 日で発症します。
基本的に治療は不要だが、重篤化した場合稀にギランバレー症候群を引き起こすことが知られています。
ギランバレー症候群は急性・多発性の根神経炎の一つであり、主に筋肉を動かす運動神経が障害され、四肢に力が入らなくなる病気です。
まとめ
原因菌 | 詳細 | 原因の食物 |
---|---|---|
腸炎ビブリオ |
好塩菌であり、NaClがないと増殖しない。 毒素を産生する少数の菌株のみ食中毒を起こす。 |
魚介類 |
サルモネラ菌 |
他の細菌性食中毒に比べ高い発熱がみられる。 病原性は弱く、大量に摂取しなければ発症しない。 まな板や包丁にも注意が必要。 |
生の鶏卵 生肉 |
腸管出血型大腸菌 (EHEC) |
O157が有名。 二次感染が多い。 潜伏期間は 3~5 日と長い。 |
野菜 牛肉 |
カンピロバクター |
日本で2番目に多い。 2〜7 日で発症する。 数週間後にギランバレー症候群になることも。 |
生ミルク 生肉 |
②毒素型食中毒
毒素型食中では食品中で原因菌が増殖し産生され毒素の摂取によって引き起こされる食中毒です。
感染型より潜伏期間が短いというの特徴です。
また、毒素が耐熱性の場合、加熱した食品からでも発症します。
▶黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
原因の食物:手作り食品
体の皮膚表面、毛孔に存在する常在菌であり、約30% ~ 100%のヒトが保有していると言われます(諸説あり)。
よって、おにぎりや寿司等直接手でふれて調理を行うものが原因となりやすいです。
潜伏期間が特に短く、食後30分~3 時間程度で、悪心、嘔吐、下痢などの症状がみられます。
黄色ブドウ球菌による食中毒では悪心・嘔吐は必発症状で、嘔吐回数は摂食した毒素量により異なります。
耐熱性のある毒素であるエンテロキシンが原因であり、通常の加熱で分解することが難しい。
また、食塩濃度が比較的高くても増殖し、毒素の産生が可能であるため、注意が必要です。
黄色ブドウ球菌自体が体内に入る感染症ではないため、抗菌薬の投与は不要であり、対症療法を行います。
一般に予後は良好で、1~2日で治ります。
▶ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)
原因の食物:真空パック食品(とくにいずし)、はちみつ
グラム陽性桿菌。偏性嫌気性で、芽胞を形成します。
菌体内にボツリヌス毒素を産生し、神経終末に作用しアセチルコリンの放出を抑制することで両側対称性の弛緩性麻痺を生じます。
ボツリヌス毒素の毒素活性は非常に高いことが知られており、ヒトの致死量は1 μg/kgといわれています。
芽胞は耐熱性が高く、100度でも数時間は耐えることができます。
これに対し、毒素は熱に弱いため食前加熱によって毒素を無効化できます。
早期であれば抗血清療法で治療できますが、神経に結合してしまった毒素には無効であり、対症療法を行います。
まとめ
原因菌 | 詳細 | 原因の食物 |
---|---|---|
黄色ブドウ球菌 |
耐熱性のある毒素であるエンテロキシンが原因。 治療法はなく、対症療法を行う。 一般に予後は良好で、1~2日で治る。 |
手作り食品など |
ボツリヌス菌 |
クロストリジウム属、グラム陽性の嫌気性菌。 芽胞を形成する。 外毒素により AChが阻害される。 嘔吐、下痢や両側対称性の神経症状を生じる。 易熱性であり加熱すれば毒素を無効化できる。 抗菌薬が無効であり、抗血清療法で治療する |
真空パック食品 |
③中間型食中毒
混合型食中毒ともいわれ、これまで説明した感染型・毒素型の両方の性質を有しています。
いずれもマイナーなもののため、表だけ簡単に載せておきます。
原因菌 | 詳細 | 原因の食物 |
---|---|---|
ウェルシュ菌 |
クロストリジウム属、グラム陽性の嫌気性菌。 芽胞を形成する。 酸素が少ないため鍋底で増殖する。 1 件当たりの患者数が多い。 潜伏期間は 10 時間前後。 |
煮込み料理 |
セレウス菌 |
芽胞を形成する。 毒素は耐熱性。 夏に多く、9 月がピーク。 嘔吐毒と下痢毒の 2 種を有する。嘔吐の方が多くみられる。 嘔吐型は潜伏期間が短く、毒素型は長い。 下痢毒は胃酸や消化酵素によって失活するため少ない。 |
米飯 肉 野菜 |
いかがでしたでしょうか?
有名なものからマイナーなものまで色々挙げてみました。
実際の食中毒は細菌だけではなくアニサキスのような寄生虫、ノロウイルスのようなウイルスによって引き起こされるものも多くあります。
それらについても同人誌では触れていきたいと思っています!
今回はこれにておしまいです!
また次回の記事も読んでくださいね♪